日本にはフリーターという職業形態は不可欠で、日本の産業を支えるキープレーヤーでもあると思う。なぜなら、彼らがコンビニなどの小売業やファミレスなどの外食産業で働いてくれるから、僕たちはかくも安い値段で買い物ができるわけです。
もし彼らがいなければ、マクドナルドや吉野屋に行ってあんな安い値段で食べることはできない。僕はかつてコンビニ店長をしたことがあるが、フリーターがいなければコンビニ経営なんて成り立たない。
あるいは、多くの人が利用しているオンライン書店のアマゾン。そのアマゾンの物流倉庫でピッキング作業をしているのも、主婦パートやフリーター。もちろん、スーパーやドラッグストアチェーンの物流倉庫も同じ。
つまり僕たちの利便性というのは、フリーターに支えられているといっても過言ではない。
フリーターを減らして正規雇用させなければならないという論調の人は、牛丼やハンバーガーの値段が3倍になっても、ファミレスの値段が2倍になっても、スーパーの商品が1.5倍になっても、異を唱えないのだろうか。
<フリーターは不安定?>
確かに派遣社員と同じく、労働力の調整弁として使われている側面は否めない。しかしフリーターは雇用が不安定な反面、シフトなり勤務スケジュールをある程度自由に組むことができる。
たとえば山登りやダイビングが趣味の人は、長期休暇が取りにくい正社員よりも自由がきくアルバイトを好むし、劇団員や芸人のたまごも、夢実現のために最低限の生活費を稼ぐ手段になっている。ボクシングなどプロだけでは食べていけないスポーツ選手やピアニストなどの音楽家も同じ。
そういう意味では、日本の文化・芸能・スポーツを支える雇用形態とも言える。
反面、正社員は、安定と引き替えにそういった自由を制限される。何事もメリットがあればデメリットもあるということだが、それを選べる日本は幸せではないだろうか。
<フリーターが増えれば国力が衰退する?>
そういう論調もあるが、フリーターの増加と国力衰退を結びつけるロジックがいまいち見えない。
そもそも、いつの時代も国を引っ張るのは、ソフトバンクの孫正義氏、ファーストリテイリングの柳井正氏、楽天の三木谷浩史氏といった傑出した人材です。そして、どんな時代でも、独創的なアイデアを出す人や死にものぐるいで働く人はいる。
反面、企業にぶらさがり、新しい仕事や業務改革に対して、斜に構えて参加しない守りに入った正社員も大勢いる。正社員だからといって、彼らが日本の国力向上に本当に貢献するのだろうか?
つまりマインドの差であって、雇用形態の差ではないのではないか。
<フリーターはスキルが身に付かない?>
僕は学生時代、居酒屋のティッシュ配りのバイトをやったことがある。慣れないウチは誰もティシュをとってくれず、暗い気分になるが、何百人もこなしているうちに、少しずつ受け取ってもらえるようになる。そして、通行人の視線の方向や表情などから、受け取ってくれそうかそうでないか、なんとなくわかるようになってくる。
直前に差し出しても受け取りにくい。わざわざ手を伸ばして受け取るのも恥ずかしいから、受け取る人の気持ちになれば、どういう位置に差し出すと抵抗感無く受け取りやすいか、どのタイミングで差し出せば気づいて受け取ってくれるかがわかってくる。そして、受け取ってもらえる率がさらに高くなる。単なるティシュ配りが、俄然おもしろくなる。
受け取ってもらえるティシュの数が増えれば、店に来てくれる人数も増える。そうやって貢献しているフリーターを、店長が放っておくはずがなく、ほどなく僕は厨房でコックの仕事に移った。
確かに、華やかな仕事はさせてもらえないかもしれない。でも、地味で単調な仕事の中でも、学べるものはある。観察して気づくことはある。つまらないと思えばどんな仕事もつまらないけど、「どうすりゃうまくいくんだ?」を考えながら取り組むと、驚くほど学べる。
これって、正社員ならできて、フリーターはできないことなのか?やはり雇用形態の違いではないような気がするのだが…。
<フリーターは無責任?>
確かに無断欠勤・遅刻をする人もいれば、すぐやめる人、まじめに仕事しない人もいる。僕もずいぶん悩まされたことがある。店内の商品を無断で持ち帰るとか、タイムカードをごまかすとか。でも、フリーターの無責任ぶりは、だいたいその程度。
しかし正社員の無責任ぶりは目を覆う。自動車のリコール隠しをしたのは自動車メーカーの正社員、欠陥住宅を売りつけるのは住宅メーカーの正社員、汚染米を転売したのも、消費期限のラベルを貼り替える指示を出したのも、みんな正社員。
いったいどっちが無責任なんでしょう??
<フリーターは年収200万円程度なので結婚もできない?>
だから少子化が加速するという理屈。
そこで僕がよく利用する、都心を中心に店舗展開しているファミレスのジョナサンのホームページで調べてみた。昼間の時給は1,000円。1日8時間、月25日働くと、月20万円で年収240万円。確かに年収200万円くらいである。
次に、ヤフー不動産で賃貸物件を探してみた。東京23区内で家賃5万円以下の物件は約4,500件ある。一人暮らしなら十分だろう。二人暮らしなら、30平米は必要だろうが、30平米超で家賃7万円以下の物件は2,000件以上ある。
夫婦共働きなら、二人合わせて40万円。税金は源泉徴収され、健康保険料や年金などの社会保険料は自分で払ったとして、手取りで32万円は確保できる。家賃7万円なら、生活費に25万円を充てられる。ここで少し貯金しておく。
子供が生まれれば、40平米は必要だろう。でも40平米超で家賃7万円以下の物件は、23区外の東京都内に広げれば、2,000件以上ある。
それにほとんどの市町村で、健康保険で出産費用は全額戻ってくるし、一時金がもらえるケースもあり、増えるのは食費と衣料費がくらい。衣料品だってリサイクルショップを利用すれば激安で手に入る。
奥様が専業主婦になると、家賃を引いて、月10万円くらいで生活しなければならないから、さすがにちょっと苦しいが、夫婦共働き時代に貯めたお金で、奥様がパートに出られるまで補填すれば、なんとかなる。
と、いろいろ計算してみると、フリーターであっても、結婚して子供を産み、家庭を持つことは無理な話ではない。
<結局は自己中心的になってきただけ>
つまり、フリーターは収入が低く社会保険の面からも弱いので家庭が持てず不幸、しかも少子化の要因でもある、というのは強引な理屈で、単に自分たちの生活を優先させたいから子供にまわすお金がない、というだけのような気がするのは僕だけだろうか。
そうすると、もはや収入や雇用形態の問題というより、個人の価値観が、自分中心に変わってきた、と言い換えた方が適切だろう。
あれこれ考えると、雇用形態の議論をしたり、国が何か対策をするなんてのは意味がない。フリーターはけしからんなどと目をむくのではなく、多様な働き方を容認する度量の大きさを僕たちが持てば、それでいいのではないだろうか。
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午堂様の記事にてさまざまな気付きを得たので、トラックバックさせていただきました。
これからもブログでのご活躍応援しております。
コメント、トラックバックありがとうございます!
今後ともよろしくお願いいたします。
午堂登紀雄
コメントとトラックバックをいただいた、Shinさんのブログを拝見して触発され、再び考えてみた。
http://bookman0001.blog72.fc2.com/blog-entry-12.html
>これらのシステムはフリーターという賃金が低くても暮らしていける本来あってもよい状況を許容していないのだ。
>フリーターは過去のニーズによって生まれた存在である。
>それを社会が受け取るためには、フリーターに対する正しい理解が必要なのではないか?
鋭い指摘だと思う。
テレビなどでも、評論家が余計なお世話をしてくれているように、フリーターという働き方を認めていないのは、ほとんど中高年だ。
彼らが若い時代には、フリーターという職業は一般的ではなかったし(たぶんそういう働き方はあったと思うけど)、そいう言葉もなかった。
フリーターが一大勢力(?)になると、自分の価値観にないものや理解できないものを排除したい彼らは、反発することで自分のアイデンティティを保とうとするのだろう。
「今時の若者」論議なんて、まさにそれで、彼らも若いときには年配世代から同じことを言われてきたのに、きれいさっぱり忘れている。
「日本語が乱れている」という議論も、言葉は進化するものであるということを忘れ、ついていけない自分を認めたくないのだろう。(そもそも正しい日本語なんて、大勢の人が使っているかどうかだけなのに)
彼らはきっと、度量が小さく、自己正当化志向が強いのだろう。
そう、Shinさんが言うとおり、負の部分だけではなく、全てひっくるめた「正しい理解」が必要なのだと思う。
負の部分だけでなく全てをひっくるめた「正しい理解」は多くの人にとって難しいかもしれませんが、少しずつ理解できる人が増えると嬉しいです。
大変興味深く読ませていただきました。
>日本の文化・芸能・スポーツを支える雇用形態
>つまりマインドの差であって、雇用形態の差ではない
という部分、共感いたしまして、フリーターという雇用体制を単純にたたく流れはどうだろうかと考えています。
ただ、子どもを持つことについては、難しいのではないかなと感じています。
出産時は、健康保険で出産費用は全額戻ってはきません。出産は病気ではないので、健康保険は使えないのです。出産一時金で健康保険から38万でますが、入院時にはそれ以上かかるので、病院によって多少の差はあれど10万ぐらいは持ち出しです(医療行為がいくつか制限されている助産院でとんとん、セレブ産院で100万くらい、一般的な病院で普通分娩で48万くらい)
また、妊娠から出産まで14回ほどある妊婦検診も健康保険が使えないため、1回につき2000〜5000円ほどかかっています。自治体からの補助券を使ってこの値段です。
そして、出産後の子どもの預け先ですが保育園入園は地域差もありますが、都心部では激戦です。入園については、家庭状況により点数化され、フルタイム正社員が優先されますので、共稼ぎの場合で双方がフリーターやパートですと、かなり不利かと思われます。雇用形態が考慮されない認証・無認可の園ですと1ヶ月6万から9万かかるので保育料でかなり家計が圧迫されるかと感じます。
コメントありがとうございます!
いろんな意見をいただき、大変うれしいです^^
一応、僕の方で調べて、フリーターでも可能な、出産一時金、確定申告時の医療費控除、児童手当、医療費援助等の制度を足し込んでみたのですが、実際は足りないのですね・・・。
確かに妊婦検診というのがあり、ここは計算外でした。
それに、保育園がフルタイム正社員を優遇するというのも驚きです。
少子化が問題と言いながら、制度として未整備なものはたくさんあるんですね。
また、出産時では、深夜・休日になると2万、3万平気で加算されますのでフリーターだとそこもさらにきついかと思います。
フリーター問題とはずれますが、「少子化が問題」と言われながらも、産んだあとに働くというのが制度として未整備でなおかつ、その未整備の現状が当事者じゃないと知られていないので、1人産んで預け先もろもろの問題で疲労困憊という家庭が多いです。
私は2人目をこれから産みますが、それでも保育園の問題で疲れたので「3人目はありえないから」と夫に宣言しています・・・。
(私も夫もフルタイム正社員なのですが、地元公立保育園が0歳時保育をやっていないので、5件まわって職場近くの無認可保育園にやっと入園できる状態でした)
ありがとうございます。
保育園問題がそんなに大変とは・・・。
>その未整備の現状が当事者じゃないと知られていない
これは重要な指摘ですね。
政治家は当事者として困った経験が少ないのかもしれません。(あ、僕もそうですね・・・)